海が見える丘。 そこには丘へとつづく長い長い坂がありました。そこを一人の悪魔がのぼっていました。その悪魔は昔、魔王とよばれ世界に破壊をもたらしたとても悪い悪魔でした。可笑しいですね、悪魔に悪い悪くないもありませんね。だって悪魔は元々いてはいけない、悪い存在なんですから。でもそうだとしても、その悪魔は本当に悪い事をしました。 その悪魔が坂をのぼっている訳、それは…友達に会うため。 坂をのぼった。その坂は最初に思ったより長く、いつも上まであがる頃にはすっかり息があがってしまっている。この坂は今まで何回かあがっているが、一向に慣れる気配はない。どうやら、俺とこの坂は相性が悪いらしい。 この上で友達が待っていてくれているのだ、早くのぼらなければ。ふたりには最後に会ってからどれくらいぶりだろう。最後に会ったのが去年の冬だったから、半年ぶりになる。少し嬉しくなってしまった。丘の上が近づいてきた。気持ちが焦りがらにもなく走り出してしまった。会ったらまずなんて言おう。「ひさしぶり」かな。 しばらくしてようやく丘の上にたどり着いた。気持ちのいい風がそこには吹いていた。 「ひさしぶり」 …つづく。 |
ひさしぶり。 さて次はなにを話そう。そうだ持ってきた花を渡そう。綺麗な花が咲いたから持ってきたのだ。 ふたりのことを思い出してみる。本当に楽しかった。そして本当につらかった。生きていてはいけない自分をゆるし、友と呼んでくれたふたりが大好きだった。だからつらかった。でも去って逝くときもこいつらは笑っていてくれた。 ふたりとも最後までバカだった。自分のことなんか全然気にしないでずっと最後まで俺のことを気にかけてくれていた。「最後まで一緒にいれなくて、ごめん」とまでいってくれた。本当にバカだった。そんなことをいわれて約束を破れるはずないのに。 …でも俺は本当のところはどうなのだろう。自分はこれから数千年は生きていかなければいけない。それだけ時間が経過しても、記憶というものは維持できるものなのだろうか。俺には分からない。おとずれなければ分からない事実を、俺はそれを少し怖いと思う。 今はもうふたりの顔しか浮かんでこない。本当にふたりは俺と友達になって、幸せだったのだろうか。無理とかしていなかっただろうか。確かめられない今、少し不安になる。かれらは俺のせいで傷つき、苦労をしてきた。それは不幸だったのではないのか。いくつもの友達の顔が記憶の中を駆け巡る。そして、俺は気づいた。思い浮かぶふたりの顔全てが笑っていることに…。 …ああ大丈夫だ。 …俺たちはちゃんと友達だった。 このことはしっかり覚えておかないと。 さあ話をしよう。 あなたがもういいというまで、いくらだって聞かせてあげよう。 この思い出が全部言葉になって放たれるまで。 あなたに届くまで、何度だって。 だいすきだった。 ううん、だいすき。 ずっとだいすき。 でも………………、もう………………… ……………………………………………… あぃ……………………。 あ、いけない、いけない。 これだけは思ってはいけない………………………………………。 ……………………………………………………………………でも、 ………………………………………………………………少しだけ。 あいたいなぁ…………………………………………。 「おじさーん」 ふりかえるとそこに、ぶたがいた。 はしっている。 ……あいに……きて、きてくれた。 …つづく。 |
また間違ってしまった。それはあまりにも似ていたから…。分かってはいても間違えてしまう。 「おじさん!おじさん!おじさんもお墓参りにきたの!?」 きゃいきゃいはしゃぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。なにがそんなに嬉しいのか、大変なはしゃぎっぷりだ。だから子供はいい。『無邪気』だ。コワれなくて済む。 「またいらしてくれたんですか?」 「ええ」 「お父さんも喜びます」 「ねえねえ!またたかいたかいしてよー!」 「だめよ。あまり失礼なこといっちゃ」 「えー!」 お母さんの怒られて、少し不機嫌そうにいった。少しかわいそうだ。せっかく会えたのだ、ちょっとくらいワガママも聞いてあげよう。 「いいよ。してあげよう」 「わーい!おじさんだいすきー!」 うっ……。その顔でそれをいうのは反則だと思った。 何回も何回もたかいたかいをしてあげる。何回も何回も。 この子をたかいたかいしてあげられるのはあと何回くらいだろう? この子も成長して大人になる。そしていつか子供を持ち立派なお母さんになるだろう。それから子供も大きくなり、子供も子供を産みおばあさんになって、そして遅くもなく速くもなく歳を取っていき、いつか死んでしまう。悲しいけどこれは覚悟しておかなければいけない。 この子の子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも、 その子供のことも、その子供のことも、その子供のことも…………………………。 しっかり見送ってあげなければいけない。 豚という生き物の一生は長くない。いったいいくつの大切な者の最後を見送らなければならないのだろう? だから今は、いつもよりも多く、たかいたかいをしてあげようと思った。 そして俺もいつかは見送られる日がくるだろう。俺がぶたと鳥の横に並べる日はいつなのだろう。そのときふたりの墓石はちゃんと風化せずに残っているだろうか。 だけど今は、たかいたかいをしてあげよう。 よりたかく、 よりたかく、 この子をたかいたかいしてあげよう。 百年二百年千年一万年百万年二千万年一億年…。 自分の寿命を知らない魔王。 自分の寿命を知らないで生き続ける魔王。 知らないままたくさんの大切な者を失っていく魔王はしあわせといえるのでしょうか? 寿命を知っている、幾千もの大切な者を失わない私たちには、決して分かりません。 けれども、今日八の月三十一日の天気は晴れ。 青空の下、 今日も魔王は笑ってる。 …いつまでも、つづく。生きていく。 |
−あとがき− これで、ぶたと鳥と魔王の物語りはおしまいです。自分の脳内で終わるはずだった魔王たちを、形にでき、自分じゃない他の誰かの中にもきざまれたことを,うれしくおもいます。 忘れてもいいのでいつか少しだけ思い出してください、友達を大切にした3人のことを。 『あなたにはそんな友達がいますか。 そして、あなたはそんな友達になれていますか。』 また何かかけたらかきたいと思います。ありがとうございました。 |