
5/9 魔女のいる町

魔女のいる町につきました。さっそく町の人に魔女の居場所を聞き込みましたが、誰もしりません。
魔女はいったいどこにいるのでしょう。
…つづく。
5/9 ぶた攫(さら)い

町の人はこんな事を言っていました。
「誰も魔女の顔を知らないのよ。」
ようはだれが魔女だかわからない。だから、どこにいるかもわからないということらしいのだ。
鳥はぶたを休ませて、ひとりで探しにいくことにしました。
ぶたが休んでいると、二人に男がぶたに近づいてきます。二人はぶたを捕まえ、どこかにつれ去って行ってしまいました。そして戻ってきた鳥は、ぶたがいないことに驚くのでした。
…つづく。
5/11 裏路地


『先日の魔王被害の報告です。死者・ーーー名、重軽傷者・ーーー名、行方不明者・ーー名。それでは行方不明者の名前を発表します。行方不明になっているのは………。』
どこからか流れてくるニュースに耳を傾けながら、鳥はぶたを探します。そのとき、ピンク色のものが右の角を曲がるのが見えました。
鳥がぶたを追って角を曲がると、そこは薄暗い路地裏でした。そこでぶたは震えてこちらを見ています。鳥が話しかけようとすると、ビクッと体をふるわせ、逃げ出してしまいました。
それを追って鳥も走り出すのでした。
…つづく。
5/12 捕獲

ぶたを捕まえました。でも、鳥くんは友達のあつかいが雑手でした。
しかしそのぶたは、鳥の探しているぶたとは違うぶたでした。そのぶたは「どこから」か、逃げて来たらしく、そのぶたと間違われてどうやらぶたは連れていかれたようです。鳥はおびえるぶた′を説得しふたりでぶたを連れ戻しに行くことにしました。
鳥はこのぶた′のおびえようから思うのでした。たぶんこのぶた′は食用なのだろうと。
…つづく。
5/12 トラック

ぶた′に案内されたところには、トラックが止まっていました。ぶたはどうやらあのトラックの荷台に入れられているようです。
運転席で男がふたり、何かを飲みながら休んでいます。漂ってくる香りから、コーヒーを飲んでいるようです。
「よかったまだつれて行かれてない。」
ぶた′が言う。
しのび足で近づきます。
「みんな無事かな…?」
ぶた′はそんなことを言っていましたが、鳥はあえて気にしないことにしました。
…つづく。
5/13 荷台

車の後ろに回ってトラックに乗り込みます。トラックは荷台が柵でおおわれた、青い車で、外からは荷台の中は見えません。
ゆっくりとドアを開けると、そこには…たくさんの豚がいました。
荷台の中は豚であふれていました。とりには、どれが豚なのかわかりません。
「ぶたどこだー?」
つぶやくとすべての豚がふりむきました。
「ここだよ〜。」
その声でぶたをみつけられました。
鳥はぶただけを摘まみ上げて、トラックを降りました。
中では豚たちが騒ぎ始めています。その騒ぎで逃出したのがバレてしまいました。ふたりの男が追って来ます。
ぶたたちは3にんで逃げるのでした。
…つづく。
5/14 袋のこぶた鳥

追い詰められました。みんな道などしりません。裏路地に逃げ込んだ3にんはふるえる体で、行き止まりで丸くなっています。
ゆっくりゆっくり、男たちが近づいてきます。
…そのとき裏路地に誰かが入ってきました。こつこつと靴を鳴らし、髪を逆光に靡かせて。その人の右手が光っています。
次の瞬間、男たちが燃え上がりました。お尻から火をあげ、声を上げています。
これが魔法なのだと、鳥は思いました。
…つづく。
5/15 影の強さ

その人がしたことが、魔法なのだということは鳥にはわかった。禍々しく、とても邪悪な匂いが漂ってきた。
路の入り口から伸びる影が…とても……こわかった…。影から漂う雰囲気は、死。それだけで力の大きさが分かった。その影が一瞬、魔王にだぶって見えたのは、鳥の錯覚だろうか。
そこに立っていたのは、手がしわしわな、顔が醜く歪んだトンガリ帽のお婆さんではなく、少し微笑んだ、普通の女の人だった。
…つづく。
5/17 勘違

魔女がこっちに歩いてきます。コツコツコツ…。何だろうやさしく強い足取りだ。この人は、優しい悪魔だ。……あ、だからか?一瞬魔王に見えたのは。
魔女が話しかける。
「大丈夫かい?奴らのことなら、心配しなくても良い。尻をちょっと焦がしただけだ。死んじゃいない。」
そして、ぶた′を掴みあげると、男たちに投げてよこした。
「あ!」
男たちは起き上がると、ぶた′を抱き上げ逃げて行った。ぶた′はこっちを見ていた。
「君は勘違いしてるかもしれないから言うけど、彼らは飼育師だ。あの豚は食べられないよ。」
ほっ…。鳥は安心した。
「でも、もし精肉用の子だったらどうした?」
残酷な目だった。鳥を試してるようなそんな。
「はは…、ごめんよ、ちょっといじわるだった。ついてきな。魔王のことと魔法について聞きにきたんだろ?お前たちのことはクチノミから聞いてる。」
それだけ言うと魔女は歩き出した。ふたりはあとを追うしかなかった。
…つづく。
5/18 魔女の住まい

魔女がつれてきた場所は町の外れにある一軒の家だった。どうやら、ここが魔女の住まいらしい。
魔女が家の中に入ってきます。ぶたたちもあとに続きました。
…つづく。
5/19 御茶

中に入ると一匹の猫が立っていました。
「ただいま。この前話してたふたりだ。ふたりとも紹介しよう。この猫はクロ。友だちの恋人だ。今は一緒に住んでいる。」
「俺はお前とも友だちだと思っていたのだがな。分かりにくい紹介をするな。始めましてクローリー・バーズです。ゆっくりしていってくれ。」
クロと紹介された猫はこういいました。
「私は御茶を用意する」
魔女は、棚に並べてある硝子の瓶から御茶葉を出し、御茶を入れてくれます。ぶたたちは椅子に座りました。
魔女が容れた御茶を運んできてくれます。魔女も椅子に座り、一呼吸置いたあと、かたり始めました。
…つづく。
5/19 単刀直入

「単刀直入に言おう。魔王は倒さなくちゃ駄目だ。君たちは何故魔王がああなったのか知らないだろう。魔王は怒りを見ると破壊衝動が抑えられなくなる。だから、この世に怒りという感情があるかぎり魔王は魔王なんだ」
だから、魔王を倒す?コワレてしまったのに、僕たちを助けてくれた友だちを?
「これは世界の為でもあるんだ。魔王を倒すんだ」
「いやです。」
ふたりは同時に答えた。
「僕たちは魔王を助けるんです。倒す為にここに来たんじゃない」
…
「ははは!そうだ、それで良い。こんなことで決意を変えるようなら、ぶん殴ってやろうかと思ってたとこだ。」
そういって魔女は本当にうれしそうに笑った。
…つづく。
5/20 魔法

「魔法についても話そう。厳密には私は魔女じゃないし、魔法も使えない。『魔女』そう言い表す以外に言葉がなかったんだよ。」
魔女は少し辛そうな顔をした。
「魔法陣も呪文も媒体もなしに、
火を熾し、
物を氷つかせ、
水を操る。
そんなものは魔女とは言わないんだ。私のこの力は突然変異。何かを壊す為の力なんだよ。」
「でも、たくさんの人を守ったって聞きます。」
「違う、守ったんじゃなくて、敵を倒したんだ。それは守った事にはならない。」
魔女に昔何があったのだろう。ぶたたちは詳しく知らない。クロはなにか知っているようだが、何も言わない。
何も分からない。
「私は君たちのもとめる力を持っていない。君たちの力にはなれないんだ。」
どうやら魔法では魔王は救えないらしい。
…つづく。
5/21 クチノミ

「クチノミからの伝言が2つある。ひとつは、青の洞窟には近づくなってことだ。」
魔女が言うには、虹の原色のひとつの「青の洞窟」がこの近くにあるらしい。
しかしその青が弱まって、何かが青を吸い取っているらしい。
その何かが、ぶたたちに危険を及ぼすというのだ。
何故そんな事が分かるのだろう?クチノミとはいったいだれのことを言っているのだろう?
魔女はクチノミについて教えてくれました。
「クチノミとは、先読みをするもの。物事の先がわかる。そして、もうひとつの伝言は、俺に会いにこい、だそうだ。必要な事を教えてやると言っていた。この町の後にいくといい。」
魔女に、場所を教えてもらい、そこに向かう事にした。
…つづく。
5/22 手紙

またねと言って、ぶたたちをクロに送らせて別れた。
「またね、か…。次会うときは敵だよ?」
今はない左手を握りしめてつぶやいた。魔女の家の机に、軍隊からの手紙が置かれていた。
…つづく。
5/23 むかしばなし

ちょっとむかし話をしよう。
あるところにふしぎな力を持っている女の子がいました。
その子は何もないところから火を出し物を燃やし、何もないところから、水を出し草木にあげていました。
とてもふしぎな力、人間は持っていない力、彼女はこれを人の為に使いたい、そう思っていました。
しかしその力は、彼女が成長するにしたがって大きく強力になっていきました。
はじめは焚火をする程度だった火も、いまではかるく使っただけでも家一つ焼いてしまう力になっていました。
彼女はこれを使わないよう自分で決め、封印する事にしました。
それから、彼女の国で戦争がおこりました。
不幸な事に彼女の力は国の軍隊の目につけられました。
イヤでした。
しかし自分の大切な人を「まもり」たかったのです。
…そして戦争が終わって知ったのです。
自分は目の前にいるひとりの人間すら救えないのだと。この力は決して守るものなんかじゃないと。
その力は悪魔のような力でした。
戦場でひとりしか残らなかった彼女は「魔女」と、よばれるようになりました。
…つづく。
5/25 方向

人は皆、生きる道生きる方向を持っている。
ある人は物を売る道を選び、ある者は作物をつくり出す道を選ぶ。
魔女のいる町に訪れて、ふたりの考えが変わった。
目の前で助けを求めていた。
豚一匹を助ける事の出来ない自分を知った鳥は、力がなければ何も出来ない事を知った。
すべての人を守りたかった。
誰かを守るという事はほかの誰かを敵に回して傷つけるという事。魔女の話を聞いてそれを知ったぶたは、力では誰かを助ける事はできないのだと知った。ぶたはほかの方法を探す事にした。
ふたりは見ているものがもう違います。同じ目的であろうと。
ふたりの目指す方向が変わったのでした。
次回予告

…つづく。
