5/26 観光街


ふたりは青の洞窟の近くまで来ていました。

クチノミの忠告をやぶってそこに来ました。

そこは青の洞窟の観光で成り立っている街でした。

しかし、最近の洞窟の青減少により観光客の足が減ってきているらしく、賑やかではありません。

洞窟を象徴した青色の旗が虚しく靡(なび)いていました。


…つづく。



5/27 案内所


さっそく洞窟に向かおうとすると、呼び止められました。
「ふたりだけで洞窟に入るのかい。」
洞窟は入り組んでいて、案内人がいないと迷って危険なのだそうです。
「わたしはガイドの仕事をしています。よかったら案内しますが、どうでしょう。」
ふたりは案内を頼むことにしました。呼び止めた彼の名前を面子といいます。
料金について聞こうとしたら、
「いえ、はじめてのお客様はタダで結構ですよ」
と、言われてしまった。 少し不思議に思ったが、素直に厚意に甘える事にした。

…つづく。        



5/28 青の洞窟-entrance-


洞窟に行く途中で気づいたのですが、面子の後ろをなにかチッコイ黒いものがくっついています。よく見ると真っ黒な女の子でした。
その子はだれかと聞くと、面子は一瞬言いよどんだから、
「この子はコマと申します。私の、娘です。」
と答えた。

青の洞窟が見えてきた。

不幸でもいいそれが力なら僕は求める。
誰かがつぶやきました。それはいったい誰の言葉だったのでしょう。

…つづく。



5/28 付着


中に入ると、みんなの色が変わりました。洞窟内部の青が皮膚に付着してみんな青くなります。
色、声、香り全てに青は付着します。
「青い音ってどんなのかしらん。」
そういったぶたの声は、とても青く透き通っていました。

…つづく。



5/30 アナウンス


『この青の洞窟は今から約1800年前に大きな地殻変動による隆起や陥没、地震による断層のズレなどによってできたと言われています。この洞窟は82年前に発見されました。
その全長は12,000メートル以上、いまだ全貌が明らかにされていない、そのスケールの大きさは西の国一を誇ります。
洞窟内の石の成分は、8割が虹と同じ成分をしており、その詳しい解明は今だされていません。この洞窟のほかに東の赤の洞窟と北東の深緑の森が、虹と同じ成分をしているので有名です。
洞窟の深層部には、発見当時から神殿のようなものがありそこには宝具が納められていました。
その宝を守るため、昔、戦で活躍した戦士が奉られています。
その神殿は案内の最後に訪れる事になっています。 では次は……』
面子のアナウンスは続きます。

昔の戦士。ぶたたちはそこに引っかかりました。


…つづく。



5/31 神殿


奥深くもぐってきました。もう地上は遥か上です。地の色によって色分けされていた青も、ここまでくると、一色にしか見えなくなってしまいました。
もう色という概念を忘れてしまいそうです。全てが青になり、自分が洞窟と一つになったような錯覚が襲ってきます。海の青、空の青、この青はいったい何の青なんだろう。
空の青…。空の青に似ているかもしれません。体を吹き抜ける心地よい風。どこか昔見たような空を思い出します。
しかし実際のそこは、視覚的に与えるイメージとは違い、息苦しく、目は濃い青にやられチクチク痛み、鼻は今まで嗅いだ事のない匂いにやられもうほとんど麻痺しています。
なにか、よくないものに近づいている、そんな感覚がありました。
「大丈夫なのか。」
そう面子に聞くと
「大丈夫ですよ」と、不適に笑って答えました。
そして、ようやく、最深部の太古の戦士が待つ神殿に着きました。

…つづく。



6/1 青の戦士


ーその戦士は剣の姿をしていたー

そこは洞窟内に開いた巨大な空間でした。天井は高く、洞窟の中に空が広がっているようです。いえ、まるで空の中に立っているようです。
静かだった神殿内に声が響きました。久しぶりに空気を振るわせ るという事をした神殿は不慣れな感じで音を伝えました。
「何ヲシにキタ。」
台座に奉られている剣が話しかけてきました。

…つづく。



6/1 生け贄


面子が剣の前に歩いていきます。
「ここに人が訪れるのは10数年ぶり、お前は我に何を求めるか。」
おかしい、面子はここはルートの一つだと言っていたのに。
「私は、私の娘『子魔(コマ)』の闇を断ち切りたく参りました。」
もしかしたらと、ぶたたちは思います。

望みもしないで与えられた必要以上の親切。
時より見せた面子の陰りと不敵な表情。

ふたり騙されていたのでした。
「その娘、魔とのハーフか。で、お前の言う『闇』というのは人の部分か、魔の部分か。」
「魔の部分です。」
「では、代償をいただこう。」
「このふたりを生け贄に捧げます。」
!!!!???
「承知した。我をとるがいい。お前が我を扱うのに相応しい者か確かめてやろう。」
そして面子は、剣を手にとった。

…つづく。



6/3 容量オーバー


握った手の先から、力が流れ込んできます。流れ込んでくる力の量は面子の容量を優に超えていました。収まりきらずに溢れ出した力が渦を巻いています。
面子は力の大きさに失神してしまいました。
「ふん、もつ事も出来ぬとは、話にならん。」
面子から剣の声がします。剣が体を乗っ取ったようです。面子の姿をした戦士がふたりの方を向きました。
「お前らをただ生け贄としても、つまらん。お前らも試してやろう。我をもつこの男を倒すがいい。」
ふたりは覚悟など出来ぬ間に試される事になりました。子魔はふたりの後ろでふるえています。 剣が襲ってきました。

    …つづく。



6/4 世界のバランス


その半端ない力に、吹き飛ばされました。ただ振り下ろしただけの剣 で、どうして床がエグれてしまうのでしょう。
三たび吹き飛ばされながら、叫びます。
「いったいなんなんだよ、この力。」
どうしてこう力のある者は飛び抜けて強いのでしょう。ふたりは世界の力のバランスに呪いました。

…つづく。




6/5 断筋


…ブチッ。
戦士の攻撃がおさまりません。
必死に逃げ回ります。
とても人間の出来る動きではありません。
息切れする事なく、20分以上も全力で動くなんて、鍛えていないからだが出来る訳ないのでした。
…ブチッ!!
ほら聞こえます
。無茶をした体が悲鳴を上げる声が。
…ブチッブチッ!!
面子の体の筋肉が切れる音がします。
これ以上戦い続けたら、に度と立てない体になってしまいます。
ブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッブチッ!!!!


そういえば昔の自分もこうして体をボロボロにしながら戦ったなーなどと戦士は思いました。

もうだいぶ昔の事っでよく思い出せないけど、あの頃の想いは覚えています。

あの頃思い描いた夢は、まだはっきりと。


…つづく。



6/5 流れ込む想い


相変わらずの攻撃の嵐です。止む気配がいっこうにありません。なんとか攻撃を躱している様な状態です。
「…ぶた、見えるか。」
「うん。」
ふたりの頭の中に何か映像のような、風景のようなものが伝わってきます。どうやら戦士の記憶が流れ込んできているようです。久しぶりの戦いで気持ちが高まり、溢れてしまったからだと思われます。
「もしかしたら…。」
「うん、止められるかもしれない。」
ふたりは、なにか思いついたようです。

…つづく。



6/6 願い


剣には願いがありました。
とても細やかで、とてもたいせつな夢。
そして決して叶わないとわかっている夢。
それだけが剣の全てでした。

…つづく。



6/7 鳥を犠牲にぶたは飛ぶ


ぶたと鳥羽背中合わせに寄り添います。
「俺がぶたを投げる、その後はまかせる。」
「…分かった。」
戦士はなおも変わらず、襲ってきます。鳥はぶたをくわえて宙に思いっきり投げました。
「死ぬなよ!」
ふたりは叫びあいました。ずばっ。剣士は鳥を斬りつけ、休まず飛んでいったぶたを追います。
剣がまっすぐぶたに向かってきます。ぶたはそれをを擦りながらもよけます。そして勢い余った剣は天井に向かっていきます。剣は洞窟の天井を強く突きました。

…つづく。



6/9 夢


剣は洞窟の天井を突きました。
天井を突いた衝撃は地面をどんどん伝わり、ついには、地上にまで届きました。
天井は吹き飛び崩れてきます。崩れ落ちる瓦礫ともに戦士が落ちていきます。
そしてその隙間にみえたのです。

彼がねがってもねがっても叶えられなかって夢が。

それで戦士は気づきました。自分は剣。縛るものなど自分で断ち切ればよかったのだと。
戦士は自ら自分を縛っていた神殿を破壊し呪縛を絶ったのでした。

…つづく。



6/10 青の戦士


ある日ここに一人の男の人がやってきました。
その人はここをまもるために選ばれた戦士でした。
その戦士は空が好きでした。
ここでは空を見ることができないと、とても悲しみました。
しかし戦士は空をわすれることができませんでした。
いつもおもいでにあるのは、青いいろ。
もういちどだけ空を見たい。
そんなささやかなものが、いつのまにか戦士の夢になっていました。
これはもうだれも覚えていない、本人もいつのことかわすれてしまった、とおいある日の出来事。

…つづく。



6/10 赤いネックレス


ひどい光景でした。ぶたは瓦礫に埋もれ、鳥は血を流して倒れています。
唯一立っている者も体が所々よくない方向に曲がって、立っているのが不思議な状態です。
みんな死ぬのは確実でした。クチノミの予言は当たってしまうのでしょうか。
そのとき、唯一立っていた戦士が歩き出しました。ひゅーひゅー喉から苦しそうな息を鳴らし歩いていきます。
そして、鳥とぶたを一突きに刺しました。

それを最後に戦士は力つきて倒れてしまいました。それと対をなして、ぶたと鳥が起き上がりました。体は血で汚れていますが、どこも怪我をしていません。
戦士は声も絶え絶え喋ります。
「お前たちの『死』を切っておいた。今回は死ぬことはない。単なる礼だ。気にするな。」
この剣が宝具と言われる所以、それは切れぬものが無いというとこから来ています。言葉として存在するものなれば、切れぬものなど無いのでした。
「それよりこの寄り代もあぶない。どちらか剣を取ってくれまいか。そうだな、鳥、お前なら扱えるだろう。力は抑える、こいつを助けてくれ。」
鳥は剣を取り、面子を一刺ししました。助けるためとはいえ、気持ちのよいものではありませんでした。
「おとーさーんーー!!」
子魔がやってきます。それよりもぶたたちは驚きました。あの子が初めて喋ったのです。父に抱きつくと、おとうさんおとうさん!と泣き崩れています。
その泣き声は綺麗なものでした。体に悪魔の血が流れているとは思えないほど綺麗な声でした。

子魔が泣き止むと、面子が
「この子の母親はもう20年も前に私たち人間に殺されています。
 この子を見ていただけると分かると思いますが、とても20才過ぎには見えません。
 成長が遅いのです。いえ言い換えるなら長生きなのです。
 それは母親譲りなのでしょう。
 しかし従来悪魔は人をすぐ殺せるように生まれてすぐ成人になります。
 この子は私の血も受け継いでいるため人間の人生を引き延ばしたような成長をしているのです。」

面子は母親を殺したのは「私たち人間」と言いました。ちゃんと自覚しているのです。それはなかなかできることではありません。
「だから、私が死んでしまっても子供のまま生き続けなければいけない娘を救いたいんです。」
ほんとによく考えたのでしょう。それで出た答えなのです。剣はその頼みを答えてあげました。
鳥は剣を振り上げます。みんなが息を飲みます。
そして、子魔を真っ二つに切りました。
子魔の右半分から黒い魂が昇っていきます。その魂はどこか泣いているようにも見えました。

みんなは今洞窟の入り口付近にいます。黒くなくなった子魔が入り口に走っていきます。その肌は生き生きとしたピンク見を帯びた肌色をしています。
「よかったのかな。」
「よかったんじゃないか。」
「あやつらが決めたことだ、口出しはできん。」
ちゃっかり、戦士も一緒にいます。戦士はふたりに頼んで旅に同行させてもらうことにしたのです。

『もはや我を縛るものは無い。より青い空を見るためにつれて行ってはくれまいか。』
とのことだ。
「でも、ふたりも見たでしょう。あの魂泣いてたよ。」
「それは俺たちに心が見せた幻かもしれない。それはだれにも分からないんだ。」
「でも、」

子魔がこちらに振り向きます。
なにかをこちらに見せてくれています。 それはとても古ぼけた赤い宝石のネックレスでした。そしてそれを見せながら子魔はとても幸せな顔で笑ったのでした。





…つづく。   次回予告