6/12 勇者


今日道端で勇者を見た。
勇者は赤い双剣をふるって、仲間と一緒に悪魔と戦っていた。
その姿はまるで踊るようで、素敵だった。
時間が経つのもわすれしばらくそれを眺めていた。

                    (ぶたの日記より)

…つづく。



6/13 勇者


今日道端で勇者を見た。
勇者は赤い双剣をふるって、仲間と一緒に悪魔と戦っていた。
その勇敢に立ち向かう姿は、自分が目指すべき姿に思えた。

                     (鳥の日記より)

…つづく。



6/13 勇者


面子のところで一夜を明かした後、早朝、日が出たばかりの朝霧のただよう中ふたりは出発しました。
自分達を生け贄にした面子を恨んではいませんでした。もう終わったことでした。
そして鳥は力を手に入れました。ここにはもう用はありませんでした。
皆無事。確かに危険はあったけど、誰もいなくなりませんでした。予言は外れたのでした。

日が頭の上まで昇った頃、道端で騒ぎに出くわしました。
驚いたことに悪魔と戦っている者がいます。
いるのはふたり。赤い双剣を振るう猫と槍で突く兎です。悪魔相手だというのに、まったく引けをとっていません。
「どうやら勇者の一行らしいな。」
戦士が教えてくれました。ふたりは戦いに巻き込まれないように、その戦いを見ていました。

…つづく。



6/15 つよい生き物


戦いは何やら、苦戦をしています。3対2という差はやはり大きいようです。戦いは長引け長引くほど不利になっていきます。
すると突然、空から火が降ってきました。火に覆われた悪魔は一瞬で蒸発してしまいます。 猫と兎はうまく避けて無事でした。

「なにあれ!」
「まずいんじゃないか?」
「竜だな。逃げた方が良いかもしれん。」

空から火を吹いて現れたのは、この世界で最もつよい力を持った生き物でした。

…つづく。



6/15 仲らい


猫「大丈夫だったかい。こいつは力の加減が下手だから。」
竜「うるさいなー。ちゃんと手加減したんだから良いじゃないか。」
兎「あはは、あれで手加減?」

竜と猫がなかよく喋っています。猫はぶたたちが無事で安心したようでした。
どうしてこうなったかというと、火が降ってきたそのあと猫がぶた達に気づいて話しかけてきたのでした。
不思議な光景でした。
猫が最強の生き物と喋っているのです。ぶたは不思議になって聞きました。
「どうして、みなさんは一緒にいるんですか。」
すると猫が答えました。
「僕たちはただ友だちなだけだよ。」
と。
ああ、とぶたは思います。僕と鳥と魔王も他人から見たらこう見えるのだろうかと。そう見えて欲しいと。

…つづく。



6/18 残酷な関係


「どこまで?」
猫が聞いてきました。
「クチノミの家まで行く途中です。」
「そうなんですか?私たちと一緒ですね。私たちも魔王の倒し方を聞きにいくところなんですよ。」
「え。」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。最近は悪魔の活動が活発ですし。」
猫がにこやかに言ってくれました。

なんでこんなにもはっきり答えてしまったのかと、ぶたは後悔しました。猫とぶたの関係は出会う前から敵だったのです。
なんでも、世界は魔王討伐のため各国から勇者、魔女、魔導師、破壊兵器を集めているそうです。
猫もそれに呼ばれていたそうですが思うところがあり、別行動をしているとのこと。

ぶたと鳥は魔王との関係を黙っていることにしました。

…つづく。



6/20 焚火


その夜は、勇者達と焚火を囲んで過ごした。
ぶたと鳥はさっき猫が言った言葉が気になって、口数が少なくなっていました。猫たちはぶたたちが悪魔に会ったたショックが大きかったのだろうとおもいそっとしてくれていました。
「ちょっといいか?」
剣が小声で鳥に話かけます。
「勇者が使っていた双剣を覚えているか。あれはたぶん我と同じ属性のものだ。だから、勇者の前では我は使わない方がいいだろう。避けられる危険は避けるべきだ。」
そんなのはもちろんである。厄介ごとはなるべく避けたいものだ。と鳥は思います。
でもね、ふたりが助けようとしているのは魔王なのです。だから、厄介なんて避けようとした避けられるものではないのです。

…つづく。



6/21 非日常


それから、一週間が経ちました。今は山間を越えています。

あれからも悪魔にはたびたび会いました。その都度、勇者達が倒してくれました。
本当に悪魔が増えているようです。その非日常にようやくなれてきた頃、少し雰囲気の違う悪魔に出会いました。

…つづく。



6/22 メッセージ


「お初にお目にかかります。そちらのおふた方は、ぶた様と鳥様で、お間違いなかったでしょうか?」
その悪魔はふたりを知っていました。
「魔王様のご友人であるおふたりに、魔王様からメッセージおあずかりして参りました。」
「…友人だって。」
勇者達はただ驚いています。
「では、お伝えいたします。『もう、やめてくれ。俺は世界に倒される。おわる。それでいい。』以上です。」
言葉が片言です。必死に言葉を紡いだのでしょうか。

「それから、最後にこんなことを言っておりました。『ありがとう』だそうです。」

…つづく。



6/23 本業


「魔王様はあなた方が、ご自分を追っていると知って甚く心配しておりました。もはや喋れる体ではない故、このメッセージは直接お聞きした訳ではないのですが。」

「私の用はここまでです。お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。それでは…」
悪魔が帰る前にぶた達は聞きたいことがたくさんありました。魔王はどこにいるのか。魔王は無事なのか。
ぶたが声をかけようとしました。しかし、
「…本業に戻らせていただきます。」

「あぶない!」
勇者が叫びます。
「ご冥福、お祈りいたします。」
ぶたの頭の上には既にぶたを殺そうと悪魔の腕が伸びていました。

…つづく。



6/24 お楽しみはあとで


ズガアァァーーンッ!!
砂煙があがります。悪魔の一撃が振り落とされました。砂煙の中で傷をおって倒れているのはぶたではなく、猫でした。
猫は自分を犠牲にしてぶたを守ったのでした。しかし犠牲にしたという言葉のは正確はありません。
猫はその時、ぶたを助けることしか考えていませんでした。
「これはこれは、勇者を片付ける手間が省けてしまいました。後の楽しみに取っておこうと思いましたのに。」
猫を倒されて、興奮した兎と竜が悪魔に向かいます。しかし悪魔の背中から新たな手が生え、兎と竜の動きを封じます。
「そんなに慌ててはいけません。後でお相手いたしますから。最強種と言われた竜を殺せるとは、後が楽しみです。」
悪魔はぶたの方を向きました。そして、腹を開きそこから現れた大きな口で、再びぶたに襲いかかりました。

…つづく。



6/25 不細工でへたくそ


ぶたが襲われるところを鳥は見ていました。この前の剣の言葉が思い出されます。鳥は何もできませんでした。

『大丈夫勇者がいつもみたいに助けてくれる。勇者ならあのくらいの傷だも立ち上がってくれる。』

しかし鳥の足は一歩踏み出します。

『それに、竜だってついてるんだ今に悪魔をやっつけてくれる。』

鳥の意思とは関係なく前に歩き出します。また一歩。

『でも、やっつけた時にはもう、ぶたはいないかもしれない。』


鳥は自分の本当に気持ちに気づきました。

『ぶたを助けなくちゃいけない!あとのことは考えちゃいけない。いまおれが、ぶたを助るんだ!』


鳥は駆け出します。
鳥が剣を抜きました。とても不細工でヘタクソな斬り込み。でもその速さは剣の力を借りて、音を越えていました。

予期せぬとこからの攻撃に、悪魔はその攻撃をまともに食らってしまいました。青い線が地面に残ります。
悪魔が真っ二つになりました。

…つづく。



6/26 愉快


切られた悪魔は大きな声で、笑い声を上げました。
「ははははっは!!実に愉快!まさかあなたのような者にやられてしまうとは。あなたがそのような力を持っていようとは。あっはは、まったくもってしてやられました。」
悪魔にとってそれほどおもしろいことだったのか。苦しむのも忘れて笑っています。
「しかしその力、正しいもの、悪いものいったいどちらなのでしょう。実に興味深い。事実あなたはまだ、それが分かってないもよう。」
気持ちが悪い。真っ二つになってもまだ悪魔は喋っている。鳥は一歩後ずさりました。
「もう少し時間があればもっと…ジュウ!!」
竜が炎を吐き、うるさい悪魔の口を黙らせました。蒸発した悪魔が天に昇っていきます。
「あのくらいでは悪魔はすぐに死なない。なかには再生する者もいる。気をつけろ。」
竜がきつい口調で叱りつけます。そのあと、猫の死を切り、急いで山を下りました。

…つづく。



6/27 あくま


「あくま」の始まりを話しましょう。
この世界の生き者は他の動物の命を糧に生きています。とある大昔、ある生き物がふと始めてからずっとつづく食の連鎖です。
この世界を作った神様は驚きました。
まさか、こんな進化をとげるなんて。それはとてもいけないことです。
困った神様は、絶対的な悪を作ることにしました。それが「あくま」です。
完璧な悪を作ることで、そのほかの動物の罪をかるくしようとしました。

悪を倒そうとする心。それはきっと正義なのでしょう。
その正義をもって、動物は命を糧にするという行為を償えるようになりました。
でも、ここで問題が起こります。悪魔はいったいどうやって罪を償えば良いにでしょう?
神様はそこまで悪魔のことを考えていないのでした。

…つづく。



6/29 勇者の条件


勇敢に立ち向かった猫は、いまぐっすり眠っています。
体には所々、傷が残っています。青の剣でもすべてを癒せませんでした。
こわすことしかしらなかった悪魔の攻撃は、とても効率的に死を導くものでした。
反則をして生を取り戻したのです。文句など言えません。
兎がふいに話し始めました。
「こいつはね、守るってことをとても大切に考えているやつよ。
…でもね、こいつはちょっと壊れているの。その守るって対象に「自分」がふくまれてないの。
一番大切のものは自分の命じゃないの。
勇者って呼ばれるようになったのはそのためだけど、それはとても危険なことよね。
私がこいつに一緒についているのは、こいつが無茶をしないように見張るため。
自分で守らないこいつの命は私が守ろうときめたの。」

「でも守れなかった!肝心なときに、私は何もできなかった!!
………、おれいを言うわ、たすけてありがとう。」

話に途中から、猫は目を覚ましていたが、目をつぶったまま、黙ってその話を聞いていました。

…つづく。



6/30 仲間


突然、猫がムクッと起き上がっりました。兎はいまの話を聞かれたと気づき、目に涙をため、耳まで真っ赤にしています。
兎があたふたしていますが、それにかまわず猫は話を始めます。

「君たちは、最近の魔王の状況を知っているかい?」
ぶた達は首を横に振ります。
「魔王はこれまでにいくつもの町や国を破壊しいている。この前も国が一つなくなった。しかしその時の魔王は少し違っていたんだ。」
ぶたは息をのみます。

「泣いていたんだ。」
…。
「泣いていようと破壊はしていたのだが、俺は迷ってしまった。魔王は本当に倒すべき敵なのか、と。
この前はクチノミに会いにいく理由を、倒し方を聞くためといったが、本当は魔王をたおしても良いのかどうかを聞きにいくところだったんだ。」

「だから聞かせてくれ。魔王と君たちのはなしを。」

世界は、魔王を助けようとするぶたと鳥の味方にはなり得えません。
世界でだれも味方のいないふたりだったけど、ここでようやく、仲間ができたのでした。

…つづく。



7/1 大きすぎる力


お互いの隠していたことを明かしたことで、みんなは本当の仲間になれました。
しかし竜だけはまだ、ぶたたちのことを警戒していました。

それからは鳥も悪魔の戦いに参加しました。
自分が特別であるという優越感。人を救えたという幸福感。
そんなものを鳥は初めて感じました。
突然手に入れた力に、鳥は魅了されていきました。
その力は、あまりにも大きすぎました。

そんな鳥の姿を、ぶたは見ていました。そのぶたの顔は初めてみる怒りの表情でした。

…つづく。



7/2 仲違い


また一つ戦いを終えて、勇者達と一緒に鳥が帰ってきました。
そこで鳥は、ぶたの様子がおかしいのに気づきました。
「ぶたどうしたんだ?」
「なんでもない。まだ様子を見ることにするよ。」
ぶたはそっぽ向いていってしまいました。
「なに怒ってんだよ。」
鳥は首をかしげました。力を手に入れえた鳥、何も手にすることのできていないぶた。
力のある鳥にはぶたの怒りは決して分からないのでした。

嫉妬?疎外感?軽蔑?

…つづく。



7/3 一人だけ


「君には勇者になる素質がある。」
今日、勇者にそんなことを言われました。
鳥はとてもいい気分だった。そう自分の生き方、そんなものが見つかった気分でした。

そのあと鳥はぶたに呼ばれました。
鳥はぶたが気にやんでるのだと思い、鳥の方から先に話しかけました。
「あまり気にするな。力のないことを誰も避難しない。落ち込むことはない。」
「僕はそんなことを話したいんじゃないよ。」
返ってきた返事は予想外のものでした。
「僕は君に聞きたいことがあるだけ。君は一体何を守ろうとしているの?人々。それとも、魔王。」
目を一瞬泳がせてから、
「魔王だ。」
と言いました。ぶたが続けます。
「君は、力に目がくらんでいる。力に惑わされ、今では人々と魔王、両方を助けようとしている。
そのことにさえ、気づいていない。いい?それではあとで大変なことになるんだ。
両方を助けるということは、両方の味方になり同時に両方を裏切ることになる。
僕たちはね、本当は、たった一人しか守ることができないんだよ。」
よく考えて。そういい残してぶたはいってしまいました。

…つづく。



7/12 偽善者


ぶたが去って行きます。その姿を竜は物陰からながめていました。
竜はこんな奴らをいままでたくさん見てきました。
すべてのものを守りたいという者。ただ一人だけを命をかけて守ると誓った者。
そういう者たちの結末は大体同じだ。
そういう者たちは自分の理想に届かず勝手の完結して死んでいくのだ。
だてに100年は生きていない、どうせこいつらもそういった者たちと同じであろうと、竜は思っていました。
こういう奴らをなんて言うんだっけ?
ああ、偽善者か。

そう思ってしまうと体がうずきます。そういう者たちをからかいいじめたくなりなす。
竜はぶたのあとを追いました。

どうせ皆同じ。自分一つの命でできることがなんなのか分かっていない大莫迦者ばかり。

…つづく。



7/13 反論


ぶたのまえに竜が現れました。
「お前はなにか偉そうなことを言っていたが、自分はどうなんだ。何かを助ける。結局のところ何もできないんじゃないのか?」
竜は内心反論して怒り狂うぶたの姿を想像しました。
ただでさえぶたはいま怒りで冷静な判断ができないはずだ。
信念を否定されるというのは堪え難いもののはず。
そこで怒るようならその程度だっかというだけのこと。
しかし、かえってきた答えは、まったく違うものでした。
「僕はたぶん、魔王を哀れに思ってしまっているのだと思う。
友だちのそんな哀れな姿をすくいたい。僕の行動はそんな単純なものなんだとおもう。
助けられるか助けられないかじゃなくて、何をたすけたいのか。ただそれだけなんだ。」
ぶたは決して嘘をつかなかったのです。
うわべも、着飾った言葉も、失礼なことも包み隠さず、ぶたは言葉にしたのです。

竜はこう、なにかに裏切られたようなそんな気分になりました。

…つづく。



7/13 正しい


鳥はぶたに自分の考えを伝えました。
よく考えよく考慮し、「正しい」回答を導き出しました。

「俺は、これからも、悪魔を倒すし、悪魔に襲われている人がいれば助ける。それから、魔王を助けることもあきらめない。」

鳥は裏切り者の道を選んびました。それが鳥が「正しい」と選んだ道です。
それを聞いたぶたはどこか悲しそうでしたが、もう怒ってはいませんでした。

…つづく。



7/15 3人目と4人目


鳥は、初め、たったひとつのものをゆるがなく守れる存在にあこがれていました。
しかし、魔女の話を聞き、子魔を助け、力を手に入れ、力とは一つのものを守るだけではないことに気づいたのです。
だから、手に入れた力で、すべてのものを守りたいと思いました。
ぶたは、すべてのものを守れる存在にあこがれていました。
魔女の話を聞き、子魔のたましいを見て、力では人を幸せにはできないのだと知りました。
力は、結局どう形を変えても破壊するものに変わりなかったのてす。
ならば、ただ一人だけをゆるがなく守れる存在になりたいと思いました。

ふたりは、気づかぬうちにお互いのなりたかったものになっていました。

竜は昔、自分を大切にしない猫のバカさに惚れて仲間になりました。
それから、兎の自分の力量を知りつつも猫についてくるその直向(ひたむき)さにも惚れました。
そして今、また心が動かされています。
友を守り、それに敵対する存在ですら守ると誓った、裏切り者。
何を犠牲にしてもただ一人を守ると誓った、偽善者。
そんなバカふたりに竜は心が揺れていました。
実に魅力的。
そのとき竜の中で、ぶたと鳥は、竜が心をゆるせると思った、3人目と4人目になりました。

…つづく。


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